かつての日本は総中流社会と呼ばれていました。国民の9割が中流と意識する社会です。まあまあの成績を取っていれば、まあまあの学校・まあまあの会社に入ることができ、まあまあの豊かさが保証されていた社会です。そうした社会では1割の「落ちこぼれ」にさえ入らなければよいとされていました。保護者の皆さんも子供の頃、「クラスでトップとは言わない、せめて平均点くらいは…」と、親から言われていたのではないでしょうか。それは、平均点さえ取っていれば1割の落ちこぼれにはならないと安心できたからです。ところが現在は「パレートの法則(20対80の法則)社会」です。上位2割に入らなければ豊かさが保証されない社会です。好むと好まざるとに関わらず、日本はそうした社会に突き進んでいます。子どもたちが生きる未来は、その傾向にいっそう拍車がかかっていることでしょう。親として何ができるか、子どもに何を残してやれるかを考えなければなりません。
第1に、以上のような社会の変化、それに伴うシステムの変化をしっかりと受け止めることです。人は、自分にとって不都合な事象に対して目を背ける傾向があります。「とりあえず今日は考えるのをやめよう。もしかしたら、明日になれば事態は好転するかもしれない」と考えます。しかし、現実社会では周りが勝手に好転することはありません。好転させることができるのは、自分の力以外にはないのです。子どもはまだ、自分の人生を好転させる力を持っていません。親としての責任と覚悟が求められています。少なくとも近未来のことで言えば、紆余曲折はあるものの、大学入試改革をはじめとする教育改革が2020年度から始まりました。その改革に対応できる能力を子どもには身に付けさせたいものです。
次に必要なことは、子どものうちに身に付けさせなければならない具体的な能力を知ることです。これまでは、「読み・書き・そろばん」と言い習わされているように、基礎学力が必要とされてきました。もちろん、これからも基礎学力は必要なのですが、それだけでは足りません。「未来に生きる子供たちにとって必要な能力」に照らし合わせた場合、「思考力・判断力・表現力」「協働して学ぶ態度」を養成することが求められています。考えてみれば、今までのペーパーテストで測られる「学力」は、実社会では通用しないと言われてきたものです。
あとは賢明な保護者の選択にお任せするべきでしょう。どうぞ、我が子の未来のために悔いのない選択をしてください。もとより教育の成否はすぐに答えが出るものではありません。もしかしたら十年後、二十年後…遠い未来に判定は下されるのでしょう。しかし、だからこそ今、我々大人は真剣に考えなければならないのです。「自分の人生を本気で思ってくれている人がいる」―その思いこそ、子どもが自ら未来を造っていく力の源(みなもと)なのですから…。(了)