子供の学力向上【1】学力向上の原則・環境

子供の学力はどのようにして形作られるのでしょう。実は、次の数式で学力は表すことができます。学力=素質×環境(集中力)×学習量

学力は掛け算で表わされます。掛け算ですので、どこかが0でしたら全体が0になってしまいます。例えば、どんなに素質のある子供が素晴らしい環境(例えば優秀な家庭教師、優れた教材)を与えられたとしても、勉強時間が0では学力の向上はありません。素質は厳然として存在するのは確かなのですが、誰も見ることも計ることもできません。大袈裟に言えば「神の領域」です。それを自慢することも嘆くことも、意味はありません。

そこで、ここでは環境(集中力)と学習量についてお話します。環境というと、「勉強部屋」「塾」「家庭教師」「教材」などが思い浮かぶと思いますが、そうした物的条件に関しては今の子供たちは総体的に言って充分恵まれていると言ってもいいでしょう。ここで皆さんにお伝えしたいのは精神的な環境についてです。キーワードは「プレッシャー」です。

受験生を例にお話します。受験直前になると、それまで勉強していなかった子供でも勉強します。なぜでしょうか。そう、焦るからです。どんな悠長に構えていた子でも、やはり試験直前というのは焦ります。焦る理由も分かっています。それまで勉強していなかったことを自覚しているからです。今までサボってきたということが分かるから焦ります。ですが、思ったようには成果が出ません。ますます焦るという悪循環に陥ることが大半です。その理由は…。

人は焦ったり緊張したりすると、脳にベータ波という防御波が出ることが知られています。逆にリラックスしていると、アルファ波という受容波と呼ばれている脳波が出ます。このアルファ波が出ている間は、人間の脳というのは情報を吸収する力が大変高くなります。それに対してベータ波は、脳に入ってくる情報をシャットアウトしようとします。すると脳がパニックに陥り、いわゆる「頭が真っ白」という状態になります。皆さんも、普段だったら簡単に答えられることが、緊張して答えられなくなることがあるでしょう。

勉強も同じです。焦って勉強すると、学習内容が頭に入ってこないということがあります。単語を何度書いても覚えられない。脳がベータ波を出すとそうなってしまいます。それに対して、リラックスしているとアルファ波が出ますので、どんどん吸収できます。そういう状態で勉強した方が、はるかに学習効果が上がります。リラックスして1時間勉強することは、焦って勉強する十時間に相当します。受験直前は誰でも緊張しますので、学習効果は落ちるのです。自分が出来ないところばかりに意識が行き、焦ってしまいます。

これは受験勉強に限らず、普段の学習についても言えます。子供たちは日々の生活の中で様々なプレッシャーを感じています。「成績が下がったら叱られる」というのがその代表例です。ご両親が知らず知らずのうちにプレッシャーをかけ、子供たちに無用の焦りを与えていることがあるのです。また、友達関係で悩んで勉強に悪影響を与えることも少なくありません。子供たちがリラックスして学習できる環境を与えることが、我々大人には求められています。

子ども自身が知らず知らずのうちに、無用の緊張状態を作ってしまうことがありますーながら勉強です。

生徒たちの中には、「ラジオを聞きながら勉強した方がはかどる」と言う子がいます。しかし、それは錯覚です。ラジオを聴きながら勉強をした場合、脳は耳から入ってくる「ラジオの情報」と、目から入ってくる勉強の情報を同時に処理しようとします。言ってみれば脳が「股裂き状態」になるのです。勉強終了後、「たくさん勉強したなあ」という充実(疲労)感を感じたりしますが、その半分はラジオに取られています。自分が実感するほど学習効果は得られていないのです。

同様に、深夜学習も避けたいものです。受験生やテストを間近に控えた生徒に見られる現象ですが、学校から帰ると一度寝て、夜遅くから深夜にかけて勉強する子がいます。深夜の方がはかどるからと言って。

皆さんも、昼間に比べて深夜の方が「時間が経つのが速く感じること」はありませんか。深夜は脳が疲れてくるので働きが鈍くなります。すると効率が落ちるので、1時間に可能な情報の処理量が少なくなってしまいます。たいした量の勉強をしないうちに1時間が経ってしまうので、「もう、こんな時間か。時間が経つのが速いな」と感じます。それを時として充実感と錯覚してしまうのです。

特別な場合を除いて、勉強はできるだけ早く始めて、日付が変わる前には寝るようにした方がはるかに効果的です。